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大阪地方裁判所 昭和33年(行)56号 判決 1968年5月24日

原告 双葉商事株式会社

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 川井重男 外二名

主文

被告が昭和三三年八月二九日付で、原告の昭和二九年四月一日から同三〇年三月三一日までの事業年度分の法人所得につき、その課税所得金額を金一、六二八、〇〇〇円としてなした審査決定のうち、課税所得金額一、〇六六、三〇〇円を超える部分を取消す。

被告が昭和三三年八月二九日付で、原告の昭和三〇年四月一日から同三一年三月三一日までの事業年度分の法人所得につき、その課税所得金額を金三、八二〇、一〇〇円としてなした審査決定のうち、課税所得金額二、七一四、三〇〇円を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告のその余を被告の負担とする。

事実

第一、申立

(一)  原告の求める裁判

被告が昭和三三年八月二九日付で、原告の昭和二九年四月一日から同三〇年三月三一日までの事業年度分の法人所得につき、その課税所得金額を金一、六二八、〇〇〇円としてなした審査決定のうち、課税所得金額九六〇、七九三円を超える部分を取消す。

被告が昭和三三年八月二九日付で、原告の昭和三〇年四月一日から同三一年三月三一日までの事業年度分の法人所得につき、その課税所得金額を金三、八二〇、一〇〇円としてなした審査決定のうち、課税所得金額一一七、三〇四円を超える部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(二)  被告の求める裁判

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決。

第二、主張

(一)  (請求原因)

一、原告は、映画製作のために必要な衣裳の製作提供の請負を業とする会社である。

二、原告は、昭和三〇年五月二三日右京税務署長に対し、原告の昭和二九年四月一日から同三〇年三月三一日までの事業年度分(以下、昭和二九年度分という)の法人所得につき、その課税所得金額を金九六〇、七九三円として確定申告したところ、同署長は同三〇年七月三〇日右課税所得金額を金三、八三七、〇〇〇円とする更正決定をなした。そこで原告は、同署長に対し、同年八月四日再調査請求をしたが、同三一年一〇月三一日これを棄却されたので、同年一一月二二日被告に対し審査請求をしたところ、被告は同三三年八月二九日右更正決定を一部変更し、所得金額を金一、六二八、一〇〇円とする審査決定をした。

三、さらに原告は、昭和三一年五月三一日右京税務署長に対し、原告の昭和三〇年四月一日から同三一年三月三一日までの事業年度分(以下、昭和三〇度分という)の法人所得につき、その課税所得金額を金一一七、二〇四円として確定申告したところ、同署長は同三一年一〇月二九日、右所得金額を金六、一三六、四〇〇円とする更正決定をなした。そこで原告より同署長に対し再調査請求をしたところ、同年一二月三日被告に対する審査請求があつたものとみなされるにいたり、かつ、被告は同三三年八月二九日、右更正決定を一部変更し、課税所得金額を金三、八二〇、一〇〇円とする審査決定をなした。

四、しかしながら、原告の右各年度における課税所得金額は申告額のとおりであるから、右各審査決定のうち申告額を超える部分はいずれも違法である。よつて、原告は被告に対し、右違法部分の取消しを求めるため、本訴に及んだ。

(二)  (答弁)

一、原告の営業の実態は、映画製作に必要な衣裳を映画会社に賃貸することにあるのであつて、原告の主張するような請負を内容とするものではない。

二、原告の主張請求原因第二項、第三項の事実はいずれも認める。

三、しかしながら、原告の昭和二九年および同三〇年度分の課税所得金額は、それぞれ金一、六二八、一〇〇円および金三、八二〇、一〇〇円であるから、本件審査決定はなんら違法ではない。その理由は以下のとおりである。

<一> 昭和二九年度

原告の昭和二九年度における損益の計算は次のとおりである。

(イ) 利益の部

売上高       一四、七五三、九八〇円

雑収入          一一八、三九七円

期末仕掛品たな卸高     三二、三七〇円

(ロ) 損失の部

建物工具減価償却費    二四三、二八六円

衣裳減価償却費    七、三六八、八七一円

内訳

償却対象資産    一〇、七七三、二〇四円

(原告が資産に計上している映画用衣裳の期末帳簿価額二、七四〇、九四一円と当期の損金に計上した映画用衣裳の償却費五、二九一、三二二円および評価損の額二、七四〇、九四一円の合計額)

償却範囲額      七、三六八、八七一円

(原告の保有する映画用衣裳の耐用年数は、原告の業態にかんがみ、一般の貸衣裳業のそれによるべきではなく、固定資産の耐用年数等に関する省令別表第一「器具および備品」のうち「劇場用および映画用のもの」「映画フイルム及び衣しよう」の項を採用して二年として計算すべきであるから、これに対応する「定率法による償却率」は〇・六八四となる。したがつて、前記映画用衣裳の償却範囲額は、償却対象資産一〇、七七三、二一四円に右償却率を乗じた額七、三六八、八七一円となる。)

外注費        一、三六七、〇〇三円

賃借料          一九五、二八〇円

賃金            六六、七〇〇円

製作雑費         三七三、六一一円

営業費        三、五〇二、四二八円

(ただし、これには法人税法九条二項により損金に算入しえない租税公課四、〇〇〇円が含まれている。)

値引            二〇、〇〇〇円

雑損失            六、九〇〇円

当期利益金      一、七六〇、六六八円

(ハ) 課税所得金額 一、六二八、一八五円

右当期利益金に、原告が営業費に計上して損金に算入した租税公課四、〇〇〇円を加算したうえ、繰越欠損金一三六、四八三円を減算したもの)

以上の損益計算を要約すれば、別表(一)記載のとおりである。

<二> 昭和三〇年度

原告の昭和三〇年度における損益の計算は次のとおりである。

(イ) 利益の部

売上高       一八、七二三、〇〇〇円

雑収入          三六五、八九一円

期末仕掛品たな卸高    一〇一、〇四〇円

(ロ) 損失の部

建物工具減価償却費    二五五、二二九円

衣裳減価償却費   一一、〇〇〇、一一三円

内訳

償却対象資産    一六、〇八二、〇三八円

(期首衣裳たな卸高  二、七四〇、九四一円

期首仕掛品たな卸高     三二、三七〇円

材料仕入高     一〇、五三七、九九九円

外注工賃       二、二〇八、三七六円

前期償却超過額否認    六六三、三九二円

以上合計      一六、一八三、〇七八円

右合計額より期末仕掛品たな卸高一〇一、〇四〇円を控除した金額一六、〇八二、〇三八円が償却対象資産の額である。)

償却範囲額     一一、〇〇〇、一一三円

(償却対象資産に前記償却率〇・六八四を乗じたもの)

材料仕入高        一〇一、〇四〇円

賃借料          一三三、四〇〇円

賃金           一五八、六二〇円

営業費        三、九一三、四一二円

(ただし、これには損金に算入しえない非常勤役員植木はな外二名に対する役員報酬合計金一九二、〇〇〇円が含まれている。)

当期利益金      三、六二八、一一七円

(ハ) 課税所得金額 三、八二〇、一一七円

(右当期利益金に、原告が損金に算入した非常勤役員植木はな外二名に対する役員報酬合計金一九二、〇〇〇円を加算したもの)

以上の損益計算を要約すれば、別表(二)のとおりである。

四、本件各事業年度に原告が仕入れた衣裳またはその材料の仕入高をそのまま損失として計上することなく、衣裳の減価償却費のみを損失に計上して利益金を算出した理由を詳述すれば、以下のとおりである。

原告の営業内容である映画会社との間の衣裳に関する契約は、原告の保有する衣裳を映画会社に使用させ、その対価として賃料を収取することを約する賃貸借契約であつて、請負契約ではない。すなわち、映画会社は、特定の映画を製作するに際して、その都度、原告のごとき業者との話合いによつて使用料、所要衣裳の種類・数量などを取り決め、業者はこれに応じて衣裳を新たに調整し、または手持ちの衣裳の中から選んでこれを映画会社に提供するとともに(映画の製作が完了すればその返還を受け、将来の衣裳製作の参考資料として保有することになる)、その使用の対価として賃料(損料)を収取するのである。

すると、原告の保有する衣裳は、通常過程において販売する目的で保有されている資産(たな卸資産)ではなくて、原告の事業のために使用することを目的として保有される資産、すなわち固定資産であるといわなければならず、したがつて、原告が右衣裳を取得するために支出した費用は、固定資産取得のための費用、つまりいわゆる資本的支出であつて、これを経費として損金に計上することは許されないのである。換言すれば、原告の場合、事業の用に供する固定資産である衣裳に投下した費用は、その支出の都度損金として支出すべきものではなく、固定資産の償却方法によりその支出金額を各年度に配分し、その減価償却額をもつて当該年度の損金とすべきものである。

なお、原告の保有する衣裳のうち主演級俳優の着用するものは、映画製作上二度と使用されることがないものであるかもしれないけれども、映画撮影終了後映画会社より返還を受け、将来の衣裳製作の参考資料として保有され、顧客である映画会社にも随時提供されるものであるから、参考資料としての価値がなくなり廃棄されるにいたるまでは、なお固定資産たるの性質を失わないというべきである。

(三)  (被告の答弁に対する原告の主張)

一、原告の本件各事業年度における損益計算は次のとおりである。

<一> 昭和二九年度

(イ) 利益の部

売上高、雑収入および期末仕掛品たな卸高はいずれも被告主張のとおりである。

(ロ) 損失の部

建物工具減価償却費、外注工賃、賃借料、賃金、製作雑費、営業費(ただし、これには、被告主張のごとき租税公課四、〇〇〇円が含まれている。)値引、雑損失がいずれも、被告主張のとおりであることは認めるが、原告の営業用衣裳について減価償却費のみを損金に計上している被告の損益計算は正しくない。すなわち当期仕入衣裳(外注工賃を含む)のうち主演級のもの(その割合は全体の七四・三パーセントである)は、後に述べるとおりたな卸資産というべきであるから、その任入高全額を損金に算入すべきであり、ただ、繰越衣裳といわゆる仕出用の衣裳についてのみ、これを固定資産としてその減価償却費を損金に算入すべきものである。その数額を示せば次のとおりである。

(A) 主演級衣裳仕入高 五、六九七、二三三円

(当期仕入衣裳原価     六、三〇〇、八七五円

外注工賃          一、三六七、〇〇三円

以上の合計七、六六七、八七八円に一〇〇分の七四・三を乗じたもの)

(B) 仕出用衣裳の減価償却費六七三、九六〇円

(当期仕入衣裳原価と外注工賃との合計額に一〇〇分の二五・七を乗じた額一、九七〇、六四五円に、耐用年数二年に対応する定率法よる償却率〇・六八四を乗じ、年度の中途に仕入れたものがあることを考慮に入れて二分の一を乗じて得た金額)

(C) 前期より繰越した衣裳の償却費二、八七六、四四一円

(繰越衣裳四、二〇五、三二三円に右償却率〇・六八四を乗じて得た金額)

なお、以上(A)、(B)、(C)の合計額のほかに、消耗衣裳(小製衣裳)費二六七、〇〇五円も損金に計上すべきである。

したがつて、原告の昭和二九年度における当期利益金は金九八一、九〇三円である。

(ハ) 課税所得金額      八四九、四二〇円

(右当期利益金に、原告が営業費に計上して損金に算入した租税課四、〇〇〇円を加算したうえ、繰越金一三六、四八三円を減算した額)

以上損益計算を要約すれば、別表(三)のとおりである。

<二> 昭和三〇年度

(イ) 利益の部

売上高、雑収入、期末仕掛品たな卸高がいずれも被告主張のとおりであることは認める。

(ロ) 損失の部

建物工具減価償却費、賃借料、賃金、営業費(ただし、これには、被告主張のごとき役員報酬一九二、〇〇〇円が含まれている。)がいずれも、被告主張のとおりであることは認めるが、原告の営業用衣裳について減価償却費のみを損金に計上している被告の損益計算は、前年度同様不当であつて、正しくは次の各金額を損金に計上すべきである。

(A) 主演級衣裳仕入原価 九、四七〇、五五六円

(当期仕入衣裳原価一〇、五三七、九九九円と外注工賃二、二〇八、三七六円との合計額一二、七四六、三七五円に一〇〇分の七四・三を乗じて得た額)

(B) 仕出用衣裳の減価償却費一、一二〇、三三〇円

(当期仕入衣裳原価と外注工賃との合計額に一〇〇分の二五・七を乗じた額三、二七五、八一九円に、〇・六八四を乗じ、さらに二分の一を乗じて得た額)

(C) 前期より繰越した衣裳の償却費一、七九五、八八八円

(前々期よりの繰越衣裳四、二〇五、三二四円からその前年度分の減価償却費二、八七六、四四一円を控除した額と、前年度分の仕出用衣裳の仕入高(外注工賃を含む)一、九七〇、六四五円からその減価償却費六七三、九六〇円を控除した願との合計額すなわち前年度よりの繰越衣裳二、六二五、五六八円に〇・六八四を乗じて得た額)

なお、以上(A)、(B)、(C)の合計額のほか、期首仕掛品たな卸高三二、三七〇円も損失の部に計上すべきである。

そうだとすると、原告の昭和三〇年度における利益金は金二、三一〇、一二六円である。

(ハ) 課税所得金額 二、五〇二、一二六円

(右当期利益金に、原告が損金に算入した役員報酬一九二、〇〇〇円を加算した額)

以上の損益計算を要約すれば、別表(四)のとおりである。

二、原告が本件各事業年度に仕入れた営業用衣裳(外注工賃を含む)のうち、主演級のもの(全体の七四・三パーセント)の仕入原価を全額損失の部に計上して損益計算した理由を詳述すれば、次のとおりである。

原告と映画会社との間において締結される映画衣裳に関する契約は、特定の映画の製作のために必要な衣裳の提供を仕事の内容とする請負契約であつて、被告の主張するような賃貸借契約ではない。すなわち、右の衣裳は、特定の映画のみのために製作調製して提供されるものであつて、既製の在庫品を提供すればたりるといつたものでなく、他の映画製作のために再使用することは許されないのである。(もつとも、時代劇の役人・捕手・町人・浪人・農民などの着用する衣裳や黒覆面、脚絆などのいわゆる仕出用衣裳は再使用が可能であるが、その重要度は極めて軽徴で、その金額も全体の四分の一程度にすぎない。)のみならず、いつたん衣裳を提供したのちも、映画の撮影が終るまでは、映画会社の都合により、随時、衣裳の作り直し、仕立替をするよう要求されてこれに応じなければならなず、さらに、映画会社は汚損、ライト焼、紛失などの責任を全く負わず、すべて原告の負担において処理されるのである。

すると、原告の保有する衣裳のうち、いわゆる仕出用衣裳は固定資産というに妨げないけれども、主演級の着用する衣裳は、たな卸資産というべきであつて、これを取得するために要した費用は、全額当該年度の経費として損金に計上すべきものである。なお、原告が映画会社から返還を受ける使用済の衣裳は、残骸的衣裳であつて財産的価値に乏しく、原告としては単に将来の衣裳製作上の参考資料として整理保存するにすぎないから、右衣裳が映画会社から返還されるとの一事をとらえてこれを固定資産であるとすることはできない。

(四)  (原告主張の損益計算についての被告の認否)

原告主張の昭和二九年度の損益計算のうち、前期よりの繰越衣裳が金四、二〇五、三二三円であることは争わない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が、映画製作のために必要な衣裳を映画会社に製作提供すること(その契約内容については後に認定するとおりである)を業とする会社であること、ならびに請求原因第二項、第三項の事実については当事者間に争いがない。

二、しかして、原告の昭和二九年度および同三〇年度の課税所得金額につき、被告は、これをそれぞれ金一、六二八、一〇〇円および金三、八二〇、一〇〇円であると主張し、原告は申告額どおりであると争うので、以下この点について検討する。

<一>  昭和二九年度

原告の昭和二九年度分の損益計算のうち、次の各点については当事者間に争いがない。

(イ)  利益の部

売上高    一四、七五三、九八〇円

雑収入       一一八、三九七円

期末仕掛品たな卸高  三二、三七〇円

(ロ)  損失の部

建物工具減価償却費 二四三、二八六円

賃借料       一九五、二八〇円

賃金         六六、七〇〇円

製作雑費      三七三、六一一円

値引         二〇、〇〇〇円

雑損失         六、九〇〇円

営業費     三、四九八、四二八円

(当事者間に争いのない営業費三、五〇二、四二八円のなかに、被告主張のとおり法人税法九条二項により損金に算入しえない租税公課四、〇〇〇円が含まれていることは原告においても争わないところであるから、右金額より四、〇〇〇円を控除した額が当事者間に争いのない営業費の額であるとみるのが正当である。)

(ハ)  なお、前年度よりの繰越欠損金の額が金一三六、四八三円であることも当事者間に争いがない。

<二>  昭和三〇年度

原告の昭和三〇年度分の損益計算のうち、次の各点については当事者間に争いがない。

(イ)  利益の部

売上高    一八、七二三、〇〇〇円

雑収入       三六五、八九一円

期末仕掛品たな卸高 一〇一、〇四〇円

(ロ)  損失の部

建物工具減価償却費 二五五、二二九円

賃借料       一三三、四〇〇円

賃金        一五八、六二〇円

営業費     三、七二一、四一二円

(当事者間に争いのない営業費三、九一三、四一二円のなかに、被告主張のごとき役員報酬一九二、〇〇〇円が含まれていることは原告においても争わないところであるから、右金額より一九二、〇〇〇円を控除した額が当事者間に争いのない営業費の額であるとみるのが正当である。)

三、しかるところ被告は、原告の保有する映画衣裳は原告の営業形態からすれば固定資産とみるべきものであるから、原告の右各事業年度における衣裳の仕入高はそのまま損金に算入さるべきものでなく、固定資産の償却方法に従い、各年度に配分してその減価償却費を損金に算入すべきであると主張するのに対し、原告は、右衣裳のうち主演級俳優の着用するものはたな卸資産とみるべきものであるから、当該年度におけるその仕入高を金額損金に算入すべきであると主張し、これが本件における主たる争点となつているので、以下この点について判断することとする。

成立に争いのない甲第一号証、証人辻本勇の証言により成立の真正を認めうる乙第一ないし第五号証、成立に争いのない乙第六号証の一、右証言により成立の真正を認めうる同号証の二、三、第八号証、第一二号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一、二、第一七号証、証人島田喜一郎、同植木源次郎、同前田梅吉、同加戸敏、同田中三夫、同池田富保、同山口英雄、同山名芳(第一、二回)、同上野奎司、同久津名源一、同平井福太郎、同辻本勇の各証言および検証の結果を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(イ)  原告会社は、その定款上「映画演劇に関する衣裳請負」およびこれに附帯する事業を目的とする株式会社であり、その事業の内容は、注文に応じて時代劇映画用の衣裳を映画製作会社に供給することにあるが、原告会社が映画製作会社に衣裳を供給するについては、まず、映画製作会社において特定の映画の製作の企画が立てられて台本が作られ、その台本にもとづいて、監督、主演俳優その他関係者の協議で必要な衣裳の種類、型、柄、色調、数量などが決められたのち、映画製作会社よりその調達方を原告会社に注文し、その注文に応じて、原告会社において、あるいは注文どおりのものを新調し、あるいは既製の在庫品から選び出してこれを供給するという順序が履まれるのが通例であり、本件各事業年度においても同様であつた。

(ロ)  原告会社が映画製作会社の注文に応じて供給する映画用衣裳のうちには、主演俳償の着用する高価上質の衣裳と脇役の着用する衣裳、さらには、役人、捕手、町人、浪人、農民などとして登場する人物の着用する衣裳や黒覆面、脚絆などのいわゆる仕出用衣裳などが含まれているが、これらの衣裳の供給に対する対価は通常「衣裳損料」の名で呼ばれており、しかも、その金額は、供給される個々の衣裳ごとに定められるのではなくて、特定の映画ごとにあらかじめ一括して金三〇万円あるいは金四〇万円などと定められるのが通例であつた。

(ハ)  右のようにして特定の映画の製作のために供給された衣裳は、当該映画の撮影が終了すれば、すべて原告会社に返還されるが、その返還については、撮影による衣裳の汚損、ライトによる損耗、紛失その他による数量の不足に対し映画製作会社は全く責任を負うことなく、ただ撮影終了時に現在する衣裳をそのままの状態で事実上返還するにすぎない。のみならず、映画撮影終了前は、注文を受けた衣裳をいつたん映画会社に供給したのちも、映画会社側の都合により、随時、原告会社において衣裳の仕立替、数量の補充をしなければならないものとされていた。

(ニ)  映画会社より返還を受けた使用済み衣裳のうち、主演級俳優の着用したもの以外のものは再度の使用が可能であつて、実際上も、それぞれ別個の映画の製作のための注文に応じて数回提供され使用されることがあるが、主演級俳優の着用した衣裳は、特定の一本の映画の製作のみのために使用されるものであつて、その映画の撮影終了後に他の映画の製作のために再度使用されることは絶無であり、映画会社より返還を受けたのちは、ただ将来の衣裳製作のための参考資料として保存されるにすぎない。

しかして、以上認定の各事実に鑑定人太田哲三、同中川一郎の各鑑定の結果を併わせ総合すると、原告会社と映画会社と映画製作会社との間の衣裳に関する契約は、契約当事者の一方が、自己の供する材料により相手方の注文する物を製作し、供給するいわゆる製作物供給契約に類する一種の無名契約であつて(衣裳の所有権の移転を伴わないから製作物供給契約そのものではない)、その代金は、これに付せられた名称の如何にかかわりなく、その実質において請負代金でもまた賃料でもないと認められるとともに、右の衣裳に関する会計処理は、主演級俳優の着用するものと、それ以外のものとを区別して行なうのが妥当であると認められるのである。前者(反覆数回の使用に耐えるものではないから固定資産とは認められず、また、直接間接に売却されることを目的として保有されるものではないから、単純なたな卸資産とも言いがたいが、本件衣裳の供給契約が、一種の買戻条件付売買契約ともみられるところからすると、むしろたな卸資産とみるのが妥当である)については、その取得原価から使用後返還された際の処分可能価額を控除した金額を全額損金に算入し、後者(これは一種の固定資産と認められる)については、その取得原価をそのまま損金として計上することなく、固定資産の償却方法にしたがい、右金額を各年度に配分し、その減価償却額をもつて当該年度の損金に算入するのが正当であり、かつ、後者は、固定資産の耐用年数等に関する省令別表第一の「器具および備品」のうち「劇場および映画用のもの」の「衣しよう」に該当するものと認められるから、その耐用年数は二年であり、また、それに対応する定率法による償却率は〇、六八四であるというべきである。

しかるところ、前顕採用の各証拠に弁論の全趣旨を併わせ総合すると、本件各事業年度における原告会社の衣裳もしくはその材料の仕入高(外注工賃を含む)のうち、主演級俳優の着用すべき衣裳とそれ以外のものの占める割合は、前者が七割、後者が三割であつたと認定するのが相当であるから、この事実と前記各事実とにもとづいて右各年度における原告会社の衣裳に関する損金計算をすれば、次のとおりであるといわなければならない。

<一>  昭和二九年度

<イ> 主演級衣裳の取得原価    五、三六七、五一五円

(成立に争いのない甲第二号証によれば、昭和二九年度において原告会社が仕入れた商品衣裳および衣裳材料の仕入高の合計額は六、三〇〇、八七五円、外注工賃は一、三六七、〇〇三円であることが認められるから、その合計額七、六六七、八七八円に一〇〇分の七〇を乗じた額五、三六七、五一五円が、主演級衣裳の取得原価である。)

<ロ> それ以外の衣裳の減価償却費 三、六六三、一六五円

(前期よりの繰越衣裳の価額が四、二〇五、三二三円であることは当事者間に争いのないところ、これに前記償却率〇、六八四を乗じた額二、八七六、四四一円に昭和二九年度における仕入高合計七、六六七、八七八円に一〇〇分の三〇を乗じた額二、三〇〇、三六三円に右償却率〇、六八四およびその仕入が同事業年度の開始時から終了時にいたるまで引き続き行なわれているため年度の中途より原告会社の資産となつた衣裳も多数存在する点を考慮してさらに〇、五を乗じた額七八六、七二四円を加えた額が、右年度における衣裳の減価償却費である。)

<ハ> 消耗衣裳費(小裂衣裳)     二六七、〇〇五円

(前記甲第二号証によつてこれを認めることができる。)

<二>  昭和三〇年度

<イ> 主演級衣裳の取得原価    八、九二二、四六三円

(成立に争いのない甲第三号証によれば、昭和三〇年度において原告会社が仕入れた衣裳およびその材料の仕入高の合計額は一〇、五三七、九九九円、外注工賃は二、二〇八、三七六円であることが認められるから、その合計額一二、七四六、三七五円に一〇〇分の七〇を乗じた額八、九二二、四六三円が主演級衣裳の取得原価である。)

<ロ> それ以外の衣裳の減価償却費 三、二五二、〇六二円

(<A>繰越分減価償却費一、九四四、二八四円、すなわち、前々年度の繰越衣裳四、二〇五、三二三円から前年度におけるその減価償却費二、八七六、四四一円を控除した一、三二八、八八二円に、前年度分の非主演級衣裳の仕入高二、三〇〇、三六三円からその減価償却費七八六、七二四円を控除した一、五一三、六三九円を加算した二、八四二、五二一円に所定の償却率〇・六八四を乗じた額に、<B>非主演級衣裳の減価償却費一、三〇七、七七八円、すなわち、昭和三〇年度における仕入高合計一二、七四六、三七五円に一〇〇分の三〇を乗じた額三、八二三、九一二円に右償却率〇・六八四、さらに前同様〇・五を乗じた額を加算した金額が、同年度における非主演級衣裳の減価償却費である。)

<ハ> 期首仕掛品たな卸高        三二、三七〇円

(成立に争いのない甲第三号証によつてこれを認める。)

四、以上のとおりであるとすると、原告会社の昭和二九年度における当期利益金は一、二〇二、八五七円、同年度の課税所得金額は、法人税法九条五項により、右金額から当事者間に争いのない繰越欠損金一三六、四八三円を控除した金一、〇六六、三〇〇円(一〇〇円未満切捨)であり(その計算関係を要約すれば、別表(五)のとおりである)、同三〇年度の当期利益金は金二、七一四、三七五円、課税所得金額は金二、七一四、三〇〇円(一〇〇円未満切捨)であつて(その計算関係を要約すれば、別表(六)のとおりである)、被告のなした本件各審査決定のうち右金額を超える部分はいずれも違法であるからこれを取消すこととし、原告その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 光辻敦馬)

(別表(一)~(六)省略)

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